東京地方裁判所 昭和38年(ワ)6656号 判決 1963年12月26日
原告 柏熊恒
右訴訟代理人弁護士 岡部勇二
被告 国
右代表者法務大臣 賀屋興宣
右指定代理人、法務省訟務局局付検事 横地恒夫
ほか一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、原告がその主張の日に、東京高等裁判所昭和三五年(ネ)第二、八五九号建物収去土地明渡等請求控訴事件の反訴として、訴外田中清堯を相手として反訴(同裁判所昭和三六年(ネ)第一、一〇八号損害賠償請求反訴事件)を提起したところ、同事件は、右控訴事件とともに同裁判所第七民事部に係属したことは当事者間に争いがない。
二、原告は、控訴審における反訴提起につき相手方の同意が得られない場合は、これを独立の訴えとして取り扱いこれを第一審裁判所に移送すべきであつて、このような場合には反訴状には民事訴訟用印紙法第二条により第一審の訴状に貼付すべき印紙の額と同額の印紙を貼用すれば足りるのに、東京高等裁判所の受付係職員が原告に対し本件反訴状に第一審の訴状に貼付すべき印紙額の一・五倍の額の印紙の貼付を命じ金二、〇〇〇円の印紙を加貼させたのは違法であると主張する。
しかしながら、訴状(反訴状)又は上訴状が裁判所に提出された場合に受付係職員がする貼用印紙等に関する調査は、裁判長(又は単独裁判官)ないし受訴裁判所の補佐として事実上これをなしているに過ぎず、これらの職員には、訴状等を受理する以外、独立の権限はないのであるから、当事者が受付係職員の注意に従わず受付けを求めた場合においては、受付係職員としては、その受理を拒否することはできないのである。したがつて、東京高等裁判所の民事事件受付係職員が、本件反訴状の受付けに際し、原告主張のような発言をなしたとしても、それは反訴状に貼用すべき印紙額の算定について、原告の誤りを指摘し、その加貼につき事実上の注意を与えたに過ぎないものというべきであるから、右注意に従つて、反訴状に印紙を加貼すべきかどうかは、原告の全く自由に決しうべきところであり、原告が受付係職員の注意に従つて、金二、〇〇〇円の印紙を加貼した以上、それは原告が任意に印紙を貼用したのとなんら異ならないものというべきである。
のみならず、反訴は、本訴と併合審判を受けるための訴えであるから、控訴審における反訴の提起につき、相手方の同意が得られない場合にもこれを独立の訴えとして第一審裁判所へ移送すべきものではないものというべく、また控訴審における反訴については、その性質上、民事訴訟用印紙法第五条の規定により、相手方の同意がある場合と否とにかかわらず、(相手方の同意の有無は反訴状提出の際には確認できないのが通常である。)第一審の訴状ないし反訴状に貼付すべき印紙の額の一・五倍の印紙を反訴状に貼用すべきものというべきである。そして印紙を貼用すべき義務は、当事者が裁判所に対し、一定の行為ないし判断を求める申立てをすることにより、かつそれと同時に常に発生し、裁判所において申立てどおりの行為ないし判断がなされたか否かには関係がないのである。
三、してみると、本件反訴状に金二、〇〇〇円の印紙を加貼させたことが違法であることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点に対する判断をまつまでもなく失当であることが明らかである。
よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 桜林三郎 小笠原昭夫)